Complete text -- "日常性を大きく逸脱してはいるが、基本的には人の道に反していない行為"

24 June

日常性を大きく逸脱してはいるが、基本的には人の道に反していない行為

サロマ湖100kmまであと4日。一昨日よりコンディションはよくなっているが、まだまだ完全という訳ではない。少しずつ、少しずつ、箒で力を集めているところだ。今さら走り込んでも仕方がなかろうということで、基本的には体を休める方向で調整している。朝起きて、まずストレッチをする。自分が走っている姿をイメージしながら。

仕事に向かう電車の中で、パンフレットを読んだりコース図を眺めたりする。5kmごとの給食の内容を確認したり(55kmで元気におにぎりを食べている姿を想像する。とてもおいしくてにんまりしてしまう)、後半の10kmごとの制限時間を頭にたたき込んだり(ポイントは80kmで10時間という制限だ、ここを越えれば残り3時数で20km。ケガさえなければなんとかなる)、そんなことを繰り返す。

あるいは高低差の書いてあるコース図をじっと眺めながらレースを想像する。地図というのはすごいものだ。サロマ湖をぐるりと回る100kmのコースがわずか15センチ四方に収まってしまう。地図上では5センチも進めば10kmだ。スケールが違いすぎてうまく想像できない。でも、ものすごく大変そうだということだけはひしひしと伝わってくる。コース最大の難所は50〜60kmの間だ。この10kmの間に40mほどの上り下りが2度ほどある。ここを焦らずに走れるかが1つのポイントだろう。意識的にペースを落とさないと後半に悪影響が出ることは確実だ。しかしペースを落とせばタイムも落ちて、途中の制限時間が気になる。ペースを上げたくなるに違いない。

そういうことを想像していると、自分が電車に乗っていることを忘れたりする。実際にレースを走っているような気持ちになる。緊張感と疲労感をちょっとだけ感じる。きっと電車の中で険しい表情をしていることだろう。でもこういう作業が集中していくということなのだろう。そうやって少しずつ、コンディションを整えていく。

あと村上春樹の『走ることについて語るときに僕の語ること』を読み直した。フルマラソンを走る前などにもぱらぱらと見直すのだが、今回は頭から全部読んだ。この本の中には、サロマ湖100kmについて書いてある文章がある。村上春樹は1996年にサロマ湖ウルトラマラソンを完走している。タイムは11時間42分。立派なものである。

村上春樹はウルトラマラソンについて「日常性を大きく逸脱してはいるが、基本的には人の道に反していない行為」と書いている。そしてそのような「行為の常として、おそらくある種とくべつな認識を、あなたの意識にもたらすことになる。自己に対するあなたの観照に、いくつかの新しい要素を付け加えることになる。その結果としてあなたの人生の光景は、その色合いや形状を変容させていくことになるかもしれない。多かれ少なかれ、良かれ悪しかれ」とある。

「日常性を大きく逸脱してはいるが、基本的には人の道に反していない行為」とはうまい言い方である。よく考えると(というか考えるまでもなく)、僕はそういう行為にふらふらと引き寄せられてばかりいる。キャンプ場でランタンに集まる虫のように、夏の夜にコンビニに吸い込まれていく都市住民のように。そして気がつくと自分でも思ってもいなかったようなところにいたりする。村上春樹的な言い方をすれば「傾向性」ということになるのだろう。それでも「日常性の中にいるが、人の道に反している行為」よりは100倍も良いのではないかと思っている。

「日常性を逸脱しているが、人の道に反しない行為」は、人生の光景を変えてしまう。これは村上春樹の「良い小説の定義」と根本的には同じである。良い小説とはそれを読む前と読んだ後では何かが変わってしまうものである。ある行為をする。するとその前と後では、自分自身も世界も(つまり、すべてが)少し変わってしまう。

そう言えば、フルマラソンを初めて走った後、何人かの知り合いから「変わったね」と言われた。正直、自分では変わったのか、変わっていないのかよく分からなかった。ただ、あれがなければ、今回のサロマ湖100kmもなかったことは確かだ。そう考えると、知り合いの言葉とは別の意味で、自分も世界も大きく変わってしまったことになる。うん、確かにすごく変わった。(書きながら、ちょっと本気でびっくりしている)。100km走りきったらどんなことが起こるのだろう。走る前と後では自分や世界はどのように変わるのだろう。楽しみである。

書くことで、少しずつ集中していくのを実感する。あと4日、あと4日だ。

22:34:14 | tonbi | |
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